スラユット政権の課題は、今
2007年 01月 01日
1. スラユット 政権の課題は、今
スラユット首相が任命された際に、国王が指摘された課題は次の通りでした。「洪水やその他緊急の問題に対処しなければならない。特に、外国人やタイ国内でもたれる穢れたイメージを正さなければならない」
1)洪水
プミポン国王は昨年12月5日誕生日のお言葉で「洪水は防げるものだ」と指摘をされました。2006年の洪水は、水を管理するものがその義務を怠ったことによる、と明確に指摘をされました。「引き潮時に放水し、満ち潮時に放水を止める」という単純なことができていなかった、というわけです。「洪水防止に責を負う人は、洪水防止が上手に行われている場所へ行ってよく見てください」と指摘されています
2)南部対策
新政権になっても南部3県で学校の放火、教師や民間人の殺傷は続いています。王族や閣僚の現地への訪問も続いていますが、問題は解決されたわけではありません。1月26-27日、南部3県を訪問したスラユット首相は「住民参加による一致団結と平和的な手段が南部情勢正常化への鍵を握る」と述べています。
3)新憲法制定
1月25日に憲法起草作業委員会の委員長にプラソン・スンペリ空軍少将が選任されました。タイ愛国党の暫定党首のチャトロンは国会議員の数が500名から300名に削減され、愛国党が影響を受ける、との見方を示しています。上院、下院のあり方も見直されます。1997年憲法が基本になる見込みですが、先の1997年憲法起草者であったブーンスワン氏は次のように述べています。
①国民の選挙権、被選挙権は基本である
②民主主義の原則は守る
③地方自治の原則を崩さない
この3点を維持すれば、後はどのようにも変更ができる。
今後の予定では、7月までに原案が憲法起草委員会で取りまとめられ、その後、国民立法議会、国民投票につながる予定です。10月に選挙ができるのかどうか今の時点では見えません。
4)政変後のタイのイメージ
アセアン諸国、アジア太平洋諸国との首脳会議などを通じて外交的にはスラユット政権は、認知をされたと見えますが、タイではクーデターは起こらない、と思われていた印象がなくなりました。
一般の旅行者の印象はどうでしょうか。例えば、11月から1月末まで、チャンマイで開かれているロイヤル・フローラ(花博)は当初200万人の動員予想が350万人も参加しました。大半は、国内の家族旅行者ですが、海外からの旅行者も増えました。経済効果について、カシコーン経済研究所は、300万人が参加した場合で230億バーツもの効果があると見ていました。チェンマイに来る観光客は例年の4倍もの数にのぼり、ホテルやみやげ物店は賑わっています。(ホテル代も相当上がりましたが。)
2. 投資環境の変化
国際協力銀行JBICの2006年調査などをみるとタイの投資環境は次のような変化が見えます。
1) タイの優位性は何か:今まで、タイは労働力確保の優位性、政治の安定性が投資環境を見たときに中国などと比べて優れているとされました。ところが、2006年の政変と南部問題、年末の爆弾事件など治安の安定面で懸念を抱かせる要因があります。インドの台頭により、アセアンの市場よりもインドの市場に興味を持つ日系企業が増えました。また、労働コスト面では、ベトナムが注目を集めています。日系企業の関心のある投資先 1位中国、2位インド、3位ベトナム、4位タイ(昨年はタイが3位で4位がベトナムでした)
2) 投資優遇政策:タイ政府投資委員会BOIでは、自動車産業にエコカー構想を導入するなど、投資家を呼び込む政策を打ち出そうとしていますが、新しい大胆な政策を打ち出すには、現在の暫定政権ではなく次の本格政権への移行を待たなければならないと思われます。
3) 金融政策:昨年12月18日に中銀が打ち出した外為規制措置は、投資には影響を与えないと説明されていますが、現実にはバーツ高が止まらない状況です。海外からの投資コストを考えると、1年前の外貨が15%以上も高くなったことは事実でしょう
3. 組み込みソフト人材育成も日本の人材不足から
経済産業省では日本国内の組み込みソフト人材が不足していること、組み込みソフトの8割が海外にアウトソーシングをしていること、中国、インド以外にアウトソーシング先を開拓するニーズからタイ政府(ICT省、科学技術省、工業省、教育省)、家電・自動車・HDD製造など日系企業とAOTS、JETRO、TPAの協力により人材育成事業を進めています。事業は2006年にスタートして、2007年1月から第1期の研修生14名は日本の受け入れ企業で実習が始まります。
タイではICT省、科学技術省の下で,IT、バイオ、金属など各種研究施設を開設しております。それらの人材が育ち、タイが知識集約産業国家に変身できるかどうか、政府や業界の実行力が問われます。
自動車・二輪業界でも、トヨタ、ホンダ、ISUZU、ヤマハなどがR&Dの拠点をタイに設置しました。現状の製品の検定、評価から今後は新製品の設計に比重が移る過程だと見られます。
組み込みソフトの必要性で見ると、DVDでは2002年0.2Mが2005年では1.8Mと9倍、携帯電話で2002年の1Mが、2004年には5Mと5倍、自動車では2000年の1Mが2005年に5Mに5倍ものプログラムの規模が拡大しています。自動車産業における新規の技術革新の9割がエレクトロニクス分野だとも言われますので、組み込みソフト人材の必要性も拡大していきます。
4. 景気見通し、下方修正へ
中銀は、2007年の景気見通しを約0.5%下げ4-5%にしました。
主な理由は、個人消費と民間投資が昨年同期よりも下がったことです。個人消費は昨年の4-5%から3.5-4.5%に、投資も昨年の8-9%の伸びが6-7%の伸びと見ています。輸出は、昨年の6-9%から7.5-10.5%と上昇と見ています。もっとも、商業省の目標とする12.5%とは見ていません。
スチャーダ総裁補は「昨年第4四半期から投資が回復するとみていました。ところが、洪水や政府の大型プロジェクトの見通しが不確かなことから、投資家の設備投資は遅れている」と見ています。中銀の経済見通しは、財務省、国家経済社会開発庁NSEDBの見通しと似ています。なお、昨年12月に実施した為替取引規制は、経済成長率を0.79%下支えすると予測されています。
5. スワンナプーン空港の滑走路に不具合
開港4か月で、滑走路にひびが入ったというニュースが流れました。このため、補修の期間中、ドンムアン空港を代替で使用すべきだという意見もあります。運輸相は、一部の空港会社は迂回港としてウタパオ空軍基地で燃料補給をするなど対策を取っていることを認め、「この欠陥の責任は誰かが負わなければならない」としました。
15年前に現空港建設に反対した建築家がいます。建築家スメット博士によると、元ノングハウという沼地に空港を建設するのは反対だと運動をしたが、政府は結局開港に至った。昔から湿地に建てたタイの家屋のように、排水をしっかりした家なら長持ちをする。パイルを打ち込むだけでは問題だと指摘しています。バンナトラッドの高速道路もしっかりと杭を打ち込んでいるが、10数年も経過すると道路の沈下は続いています。スメット博士は、「問題は汚職が原因である。杭は必要。現在ある干拓地の上に新しい滑走路を拡張する予定があるが干拓地は拡張すべきではない。新しい滑走路は、水がその下を通るように橋げたの上に建設すべきである」との意見をもっています。
スラユット首相が任命された際に、国王が指摘された課題は次の通りでした。「洪水やその他緊急の問題に対処しなければならない。特に、外国人やタイ国内でもたれる穢れたイメージを正さなければならない」
1)洪水
プミポン国王は昨年12月5日誕生日のお言葉で「洪水は防げるものだ」と指摘をされました。2006年の洪水は、水を管理するものがその義務を怠ったことによる、と明確に指摘をされました。「引き潮時に放水し、満ち潮時に放水を止める」という単純なことができていなかった、というわけです。「洪水防止に責を負う人は、洪水防止が上手に行われている場所へ行ってよく見てください」と指摘されています
2)南部対策
新政権になっても南部3県で学校の放火、教師や民間人の殺傷は続いています。王族や閣僚の現地への訪問も続いていますが、問題は解決されたわけではありません。1月26-27日、南部3県を訪問したスラユット首相は「住民参加による一致団結と平和的な手段が南部情勢正常化への鍵を握る」と述べています。
3)新憲法制定
1月25日に憲法起草作業委員会の委員長にプラソン・スンペリ空軍少将が選任されました。タイ愛国党の暫定党首のチャトロンは国会議員の数が500名から300名に削減され、愛国党が影響を受ける、との見方を示しています。上院、下院のあり方も見直されます。1997年憲法が基本になる見込みですが、先の1997年憲法起草者であったブーンスワン氏は次のように述べています。
①国民の選挙権、被選挙権は基本である
②民主主義の原則は守る
③地方自治の原則を崩さない
この3点を維持すれば、後はどのようにも変更ができる。
今後の予定では、7月までに原案が憲法起草委員会で取りまとめられ、その後、国民立法議会、国民投票につながる予定です。10月に選挙ができるのかどうか今の時点では見えません。
4)政変後のタイのイメージ
アセアン諸国、アジア太平洋諸国との首脳会議などを通じて外交的にはスラユット政権は、認知をされたと見えますが、タイではクーデターは起こらない、と思われていた印象がなくなりました。
一般の旅行者の印象はどうでしょうか。例えば、11月から1月末まで、チャンマイで開かれているロイヤル・フローラ(花博)は当初200万人の動員予想が350万人も参加しました。大半は、国内の家族旅行者ですが、海外からの旅行者も増えました。経済効果について、カシコーン経済研究所は、300万人が参加した場合で230億バーツもの効果があると見ていました。チェンマイに来る観光客は例年の4倍もの数にのぼり、ホテルやみやげ物店は賑わっています。(ホテル代も相当上がりましたが。)
2. 投資環境の変化
国際協力銀行JBICの2006年調査などをみるとタイの投資環境は次のような変化が見えます。
1) タイの優位性は何か:今まで、タイは労働力確保の優位性、政治の安定性が投資環境を見たときに中国などと比べて優れているとされました。ところが、2006年の政変と南部問題、年末の爆弾事件など治安の安定面で懸念を抱かせる要因があります。インドの台頭により、アセアンの市場よりもインドの市場に興味を持つ日系企業が増えました。また、労働コスト面では、ベトナムが注目を集めています。日系企業の関心のある投資先 1位中国、2位インド、3位ベトナム、4位タイ(昨年はタイが3位で4位がベトナムでした)
2) 投資優遇政策:タイ政府投資委員会BOIでは、自動車産業にエコカー構想を導入するなど、投資家を呼び込む政策を打ち出そうとしていますが、新しい大胆な政策を打ち出すには、現在の暫定政権ではなく次の本格政権への移行を待たなければならないと思われます。
3) 金融政策:昨年12月18日に中銀が打ち出した外為規制措置は、投資には影響を与えないと説明されていますが、現実にはバーツ高が止まらない状況です。海外からの投資コストを考えると、1年前の外貨が15%以上も高くなったことは事実でしょう
3. 組み込みソフト人材育成も日本の人材不足から
経済産業省では日本国内の組み込みソフト人材が不足していること、組み込みソフトの8割が海外にアウトソーシングをしていること、中国、インド以外にアウトソーシング先を開拓するニーズからタイ政府(ICT省、科学技術省、工業省、教育省)、家電・自動車・HDD製造など日系企業とAOTS、JETRO、TPAの協力により人材育成事業を進めています。事業は2006年にスタートして、2007年1月から第1期の研修生14名は日本の受け入れ企業で実習が始まります。
タイではICT省、科学技術省の下で,IT、バイオ、金属など各種研究施設を開設しております。それらの人材が育ち、タイが知識集約産業国家に変身できるかどうか、政府や業界の実行力が問われます。
自動車・二輪業界でも、トヨタ、ホンダ、ISUZU、ヤマハなどがR&Dの拠点をタイに設置しました。現状の製品の検定、評価から今後は新製品の設計に比重が移る過程だと見られます。
組み込みソフトの必要性で見ると、DVDでは2002年0.2Mが2005年では1.8Mと9倍、携帯電話で2002年の1Mが、2004年には5Mと5倍、自動車では2000年の1Mが2005年に5Mに5倍ものプログラムの規模が拡大しています。自動車産業における新規の技術革新の9割がエレクトロニクス分野だとも言われますので、組み込みソフト人材の必要性も拡大していきます。
4. 景気見通し、下方修正へ
中銀は、2007年の景気見通しを約0.5%下げ4-5%にしました。
主な理由は、個人消費と民間投資が昨年同期よりも下がったことです。個人消費は昨年の4-5%から3.5-4.5%に、投資も昨年の8-9%の伸びが6-7%の伸びと見ています。輸出は、昨年の6-9%から7.5-10.5%と上昇と見ています。もっとも、商業省の目標とする12.5%とは見ていません。
スチャーダ総裁補は「昨年第4四半期から投資が回復するとみていました。ところが、洪水や政府の大型プロジェクトの見通しが不確かなことから、投資家の設備投資は遅れている」と見ています。中銀の経済見通しは、財務省、国家経済社会開発庁NSEDBの見通しと似ています。なお、昨年12月に実施した為替取引規制は、経済成長率を0.79%下支えすると予測されています。
5. スワンナプーン空港の滑走路に不具合
開港4か月で、滑走路にひびが入ったというニュースが流れました。このため、補修の期間中、ドンムアン空港を代替で使用すべきだという意見もあります。運輸相は、一部の空港会社は迂回港としてウタパオ空軍基地で燃料補給をするなど対策を取っていることを認め、「この欠陥の責任は誰かが負わなければならない」としました。
15年前に現空港建設に反対した建築家がいます。建築家スメット博士によると、元ノングハウという沼地に空港を建設するのは反対だと運動をしたが、政府は結局開港に至った。昔から湿地に建てたタイの家屋のように、排水をしっかりした家なら長持ちをする。パイルを打ち込むだけでは問題だと指摘しています。バンナトラッドの高速道路もしっかりと杭を打ち込んでいるが、10数年も経過すると道路の沈下は続いています。スメット博士は、「問題は汚職が原因である。杭は必要。現在ある干拓地の上に新しい滑走路を拡張する予定があるが干拓地は拡張すべきではない。新しい滑走路は、水がその下を通るように橋げたの上に建設すべきである」との意見をもっています。
# by tmobkk | 2007-01-01 18:40 | タイの動き